2013年5月10日金曜日

1年半で132億円を集めたライフネット生命の調達額をシリコンバレーの企業と比較してみた




74年ぶりに創業された独立型保険会社ライフネット生命が、創業からおよそ5年半年の2012年3月に東証マザース上場、2013年3月には保有契約数が16万件を突破しました。

信用が命の保険業界に、スタートアップとしてゼロから挑戦し、結果を残したことはまさに偉業というべきでしょうか。

ライフネット生命は、ボストンコンサルグループ、ハーバード・ビジネス・スクールなどで戦略を学んだ岩瀬大輔(当時30歳)と、35年以上保険業界でキャリアを積んだ出口治明(当時58歳)のコンビによって、2006年10月に設立された企業です。

 1年半で132億20万円を調達


特筆すべきなのは、この企業が紙段階の企画のみで、合計132億20万円の巨額資金を1年半という短期間で調達したことです。

調達先は、DBJ投資事業有限責任組合、マネックスグループ、新生銀行、リクルート、セブン&アイ・フィナンシャル・グループ、三井物産などなど。

日本で100億円の規模を、売上ゼロの状態で調達できる例ってあるのでしょうか?

そもそも、どうやればこんな巨額な資金を企画書のみで集めることができるの?

気になる方は、ライフネット生命副社長岩瀬大輔氏の書籍『132億円集めたビジネスプラン』または、『ハーバードで学び、私が実践したビジネスプラン』を読んでみてください。


さて、今回は100億円単位で資金調達した日本のスタートアップであるライフネット生命と、億単位の調達は当たり前の世界、シリコンバレーのスタートアップとその調達額を興味本位で比較してみたいと思います。

比較前に、ひとこと


前提として、当たり前ですが資金調達の規模で企業の価値を測ることはできません。

また、そもそも調達時期や企業規模がバラバラの企業同士を単純に比べることすらできません。

例えば、以下のような理由が考えられます。

・経済的背景→調達した時期が不景気か好景気か。バブルの時期に調達するのは比較的楽だが、リーマンショック後に調達するのは難しい。

・事業内容→ビジネスを回すのにいくらの資金が必要なのか。極端な話、宇宙ロケットを作る会社なら膨大な設備投資(アウトソーシングという手段もありますが)が必要な一方、コンサルティングの企業なら、優秀な脳みそひとつあれば可能です。前者は多額の資金を必要とする一方、後者はそれほど資金が必要ありません。また、本来なら同じ業界同士、今回はネット保険業界同士で比較すべきでしょう。

・為替レート→今回は、国内外の企業を比較するわけですから、その時期の為替を加味して比べる必要があります。日本円は一年ほど前は、1ドル80円を切るレベルでしたが、現在では100円近く下がっています。

・調達時の事業規模→調達時に既に利益orユーザーを確保している企業と、利益ゼロorユーザーゼロの企業では評価のされ方が違います。ちなみに、ライフネット生命は利益利用者共にゼロの段階で調達しています。また、本当なら上場できる規模なのに、上場時期を探りながら、資金調達をするといった事例も考えられます。

などなど。

今回は、めんどくさいので上記の要因を完全に無視して比較します。
レートは、1ドル100円計算。借入は含みません。ピックアップする企業も適当です。
※データは2013年5月10日現在、CrunchBaseによるもの

それでは、どうぞ!

やはりシリコンバレーの調達額はデカイ


では、まず上場企業から。

・Facebook→2240億円
・Groupon →1140億円
・Zynga→860億円
・TeslaMotors→318億円
・ライフネット生命→132億円
・Linkedin→103億円
・Yelp→56億円
・OpenTable→48億円
・Google→25億円
・Amazon→8億円
・Yahoo!→6.8億円
・eBay→6.7億円

うーん、やはりシリコンバレーは調達額がデカイ。
Yahoo!やAmazonをはじめとしたドットコムバブル世代の企業は、利益を上げない段階で早期に上場して市場から資金を調達していたことが分かります。ちなみに、Googleはドットコムバブルの絶頂とそれがはじけたはざまで台頭してきた企業です。

一方、ソーシャルブーム真っ只中の企業は数千億円規模で調達している例もありますね。

その中でもライフネット生命は、132億円とかなり調達している方なのではないでしょうか。すごい。

 未上場企業の調達額もすごい


その次に、有名未上場企業をどうそ。彼らはこれから更に資金調達を行う可能性もあります。

・Twitter→1160億円
・Pinterest→338億円
・Square→341億円
・Dropbox→257億円
・Evernote→251億円
・Eventbrite→140億円
・ライフネット生命→132億円
・Tumblr→125億円
・AirBnB→120億円
・Hulu→100億円
・Foursquare→71.4億円
・Uber→49.5億円
・Path→41.2億円

Twitterがスバ抜けていますが、他のスタートアップも相当調達していますね。
ただ、ライフネット生命の1年半といった調達期間や創業者の起業経歴を考えると、やはり132億円はデカイ金額のように感じます。

なぜライフネット生命は調達できたのか


シリコンバレーのスタートアップと比較しても、ライフネット生命はかなり巨額の資金調達を行ったことが分かりました。

では、なぜ彼らはこれほどの資金を調達できたのでしょうか。

代表取締役副社長の岩瀬氏は自身のブログで以下のように言及しています。

『では、我々はこの資金調達をどのようにして実現したのか?
理由はいくつも考えられるが、

① ビジネスモデルがシンプルで分かりやすかったこと
② ビジネスプランがかっちりしていたこと
③ 説明者である出口・岩瀬の二人の強みが相互補完的であったこと
④ 「一緒にやりたい」と思ってもらえる何かがあったこと
⑤ 時代がよかったこと(リーマン・ショック前夜、ギリギリ駆け込みセーフ)

の5つに整理することができると思う。』
(『132億円集めたビジネスプラン』生命保険立ち上げ日誌より)


出資を受けた当事者が言っているのだから1番答えに近いのではないでしょうか。
実際に出資をした側にも理由を伺いたいですね。

まあ、あとづけで成功の理由など何とでも言えるのですが、当時58歳の歳で超保守的な生命保険という業界と、保守的な日本というマーケットで挑戦したいと打って出た出口氏の勇気と情熱、また当時30歳の若さで30歳近く年上の人間と組む柔軟性を持った岩瀬氏の理論的(戦略的)思考能力がうまく補完し合っていたことが評価されたのではないでしょうか。

世の中を少しでもより良く変えるには相当な情熱が必要です。

ただ、情熱だけでは事を成すことはできません。

そこには、事業を遂行するにあたってロジックが必要なのです。

本書では、ロジックの部分に焦点を当て、5つのチャプターに分けて(事業機会の発見、市場分析、自社戦略、財務戦略と組織づくり、リーダーシップとキャリア論)丁寧に説明されています。


これからスタートアップとして挑戦することを考えている方、また会社で上司や顧客を説得する機会が多い方におすすめの1冊です。

数百億円規模で調達し、世界に打って出る元気なスタートアップが日本からもガンガン出てきて欲しいですね!

追記:岩瀬氏がTweetしてくださいました。

  1. これは良エントリー。ありがとうございます! RT : 1年半で132億円を集めたライフネット生命の調達額をシリコンバレーの企業と比較してみた